あたしたち、いつまで一緒なんだろう。
小学校から中学校へ、中学校から高校へ。いつの間にかかれこれ九年?十年?あたしたち六人は一緒にいるわけだけれど。なんて話をするといつもみんなはびっくりする。される質問ナンバーワンは、そんなに一緒にいて、好きになったりしないのかどうか。
「そんなこと言ったって、シスコンとバカと、あと……まあひーくんはまともだけど、恋愛対象とはまた違うっていうかさ」
机につっぷしてため息ひとつ。目の前にはこちらに向けなおした椅子の背に座って、本来座るべき場所に上履きをつけている篤史。あんたそこ貴史の席だって知ってんでしょころされるぞーなんて思うけど、めんどくさいから言ってあげない。篤史は「まーたかちゃんはシスコンだけど」なんて笑って、「で、俺はバカじゃねえ」と頬をふくらませた。
「大丈夫、あんたはバカだ」
「るっせえよ!」
「ていうかあたしには幼馴染以前に先輩がいるしさー。あ、今日もこの後一緒に帰る約束してるんだ、いいでしょ」
「げっ、一緒に帰ってくんねえのかよまきまきの裏切り者!」
「うるさいバカ」
「ひでえ!」
ぎゃあぎゃあ文句を言う篤史を無視して携帯の時計を見やる。もう五時になるところだ。そういえば今日こいつバスケ部はいいのだろうか、と思ったけれど、訊ねる前に「俺部活休みだぜ」って言われた。
「だからさー、折角久々にまきまきと一緒に帰ろうと思ったのに」
「はいはいめんごめんごー」
「謝る気ゼロだろ」
「そんなまさか、はっはっは」
「にゃろう、こっちが親身になって悩みを聞いてやったというのに」
「感謝は、してるよ」
「わーってるよ」
「まじでか」
「まじでだ」
くす、と笑えば目の前でこいつも笑う。ああ、本当にあたしたちはいつまでこのままでいられるんだろう。仲のいい友達、なんて、いつまでも続けられるものなんだろうか。
篤史は言った。あたしが友達だと思い続ければ、何も変わらないって。それはきっと、ずっと。でもそんなの信じられない、と思ってしまうあたしは弱くて、「俺はずっと、まきまきもたかちゃんもみこちゃんもひーくんもなぎも大事だよ」ってそう言いきれる篤史が酷くうらやましかった。
(でも、あたしにはみんなよりだいじなひとがいる)
「あっくん、あたしさ」
言えるはずがなかった。あたしは、みんなより先輩のほうが大事だなんて。だけどみんなにも、置いていってほしくないだなんて。身勝手にもほどがある。
「あたし、」
「いーよ無理すんな、言いたいことは言えばいいけど、言いたくないことは黙ってればいい」
「……いいの?」
「いーの!」
ぐしゃ、と頭をなぜてくれる篤史はほんとにバカだけど、ほんとに優しい奴だなあなんて思った。なんでだろう、こういう気遣いは上手いんだよなあ、空気がよめるっていうの? 普段は全くよめてないけど。そんなことを思ったら「今失礼なこと考えてただろ」なんてデコピンされた。地味に痛いなこのやろう。それでもじんじんする額をさすりながら、なんとなく自分を許せそうな気がして、「ありがと」、と笑った。
いつまでも一緒だなんて、やっぱり信じられないけれど。それでも離れることになっても、それはなるべくしてなった結末なんだろう。今いくら悩んだって、きっと何も変わらない。それならもう、一緒にいられる今を思い切り楽しんだほうがいいじゃない。
「あっくん、しょうがないからご褒美に一緒に帰ってあげる」
「いや、いいわ。なぎに連絡した」
「なにそれ! あたしより凪がいいって言うの!」
「先にフったのそっちだろ!」
「はーもう信じらんない! 知らない!」
我ながら自分勝手なことを言っているとは思いつつ、携帯の着信を合図にして立ち上がる。「もしもし先輩?」なんて思わず声が弾むのを、篤史はほほえましいような笑顔で見守っている。それがなんだか恥ずかしくて顔をそむけると、「じゃー俺行くからな」なんてガタガタ椅子を元に戻して鞄を持つ手を肩にかけ立ち上がった。凪とは多分彼女の部室かどこかで待ち合わせしているのだろう。いや、凪のことだからあいつを部室には呼ばないか。じゃあ校門かな? 電話を切って彼の背中を見送ると、なんだかちょっと寂しくて、はやく先輩に会いに行こう、とあたしも鞄をつかんで先輩の待つ下駄箱へ駆け出した。